「g線(g-line)」という言葉は、半導体露光技術や光学分野でよく登場する専門用語です。
聞き慣れない言葉ですが、実は私たちが使う電子機器の製造に深く関わっている重要な光です。
■ g線の概要
g線(g-line)とは、水銀ランプ(超高圧水銀灯)が発するスペクトルのうち、波長 436 nm の紫色の光を指す名称です。
- 水銀原子が特定のエネルギー遷移を起こすときに出る「輝線スペクトル」
- その中の 436 nm 付近の線を「g線」と呼ぶ
- 露光装置など光学用途で古くから利用されてきた光源
特に半導体製造で、i線(365 nm)やh線(405 nm)とともに使用されていたため、工学分野で非常に有名です。
■ 詳細な説明および原理(数式を交えて)
● g線が生まれる仕組み
g線は、水銀原子が励起状態から基底状態へ戻る際に放出される光(輝線)です。
水銀原子にエネルギーを与えると、電子が高い準位へジャンプします。その電子が元の準位へ戻るとき:
$$ E = h\nu = \frac{hc}{\lambda} $$
の関係に従って光が放出されます。
- E:エネルギー差
- h:プランク定数
- ν:光の周波数
- λ:光の波長
- c:光速
水銀原子のエネルギー準位の組み合わせにより、特定の波長で強く光る「輝線」が生まれ、そのひとつが 436 nm の g線です。
● g線の光学的特徴
- 波長:436 nm(可視光の青紫)
- 単色性:輝線スペクトルであるため波長が狭い
- 指向性:ランプ自体は広がる光だが、光学系で集光しやすい
- 比較的高いエネルギー:紫に近いためフォトレジストを反応させやすい
これらの特徴により、初期の半導体製造や光学機器で広く利用されていました。
■ g線の応用例
● 1. 半導体露光技術(ステッパー)
1980〜1990年代の半導体製造では、水銀ランプを使った「g線ステッパー」が主流でした。
- フォトレジストを感光させてパターン形成
- LSIやDRAMの初期世代で使用
- 現在はより短波長の i線 → KrF → ArF → EUV と進化
現在の最先端技術では使われませんが、半導体技術発展の基盤となった重要な光源です。
● 2. 光学測定・干渉実験
単色性が高いため、干渉計や光学実験に使われることがあります。
- マイケルソン干渉計
- 回折格子の評価
- 光学材料の屈折率測定
同じ水銀ランプから得られる i 線や h 線と組み合わせることで、分光干渉の実験も可能です。
● 3. 光学顕微鏡
短波長ほど分解能が上がるため、436 nm の g線は古くから顕微鏡光源として使われてきました。
- 高解像度観察に有利
- 近年はLEDやレーザー光源に置き換わりつつある
● 4. 光リソグラフィー用フォトレジストの評価
半導体に限らず、フォトレジストの研究開発でも g線は重要な基準光源です。
- 反応性の比較
- エッチング耐性の評価
- 感度曲線(感光特性)の測定
g線・h線・i線は、フォトレジスト研究の基本となる「水銀ランプ三兄弟」として扱われることがあります。
■ まとめ
g線(436 nm)は、水銀ランプの輝線スペクトルのひとつであり、光学や半導体技術を支えてきた重要な光源です。
- 波長 436 nm の紫色の光
- 水銀原子のエネルギー遷移で生まれる
- 半導体露光・顕微鏡・光学測定などで使用
- 現代では主役ではないが、光学技術の基礎として重要
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