概要
金属ミラーとは、アルミニウムや銀、金などの金属を反射面として用いた光学ミラーです。光を反射する性質を持つ金属の表面を精密に研磨・コーティングすることで、高い反射率と耐久性を兼ね備えたミラーが作られます。特にレーザー光学では、高出力レーザーを効率よく導くために重要な要素です。
特徴
金属ミラーの特徴として、以下の点が挙げられます。
- 広帯域反射: 可視〜赤外領域まで広い波長に対して高い反射率を持ちます。
- 高耐熱性: 誘電体多層膜よりも熱に強く、パルスレーザーや高出力レーザーに適します。
- 短所: 紫外域での反射率はやや低く、また酸化などによる劣化が生じやすいです。
誘電体ミラーと比較すると、反射率はやや低い傾向にありますが、角度依存性が少ないことや、任意の波長への対応のしやすさから、可動部や広帯域用途でよく使われます。
原理
金属ミラーの反射原理は、電磁波が金属表面に入射したときの境界条件に基づいています。金属内の自由電子が電場に応じて振動し、その結果として入射光を反射します。
1. 反射率の基本式
金属面での反射率 \( R \) は、複素屈折率 \( \tilde{n} = n + i\kappa \) を用いて以下のように表されます。
$$ R = \left| \frac{\tilde{n} – 1}{\tilde{n} + 1} \right|^2 = \frac{(n – 1)^2 + \kappa^2}{(n + 1)^2 + \kappa^2} $$
ここで、\( n \) は金属の屈折率、\( \kappa \) は消衰係数です。銀では可視光領域で \( R > 0.95 \) を達成可能です。
2. ドルーデモデルによる説明
金属内の電子の運動は、ドルーデモデルにより次のように近似されます。
$$ \epsilon(\omega) = 1 – \frac{\omega_p^2}{\omega^2 + i\gamma \omega} $$
ここで、\( \omega_p \) はプラズマ周波数、\( \gamma \) は緩和定数です。このモデルから、金属の反射率が高くなる理由が説明されます。特に、\( \omega < \omega_p \) の場合、光は金属表面で反射され、内部にはほとんど侵入しません。
3. 皮膜深さ(スキンデプス)
金属内に侵入する電磁波の深さ(スキンデプス)は以下で表されます。
$$ \delta = \sqrt{ \frac{2}{\mu \sigma \omega} } $$
ここで、\( \mu \) は透磁率、\( \sigma \) は電気伝導率、\( \omega \) は角周波数です。この値は数十ナノメートル程度であり、ミラー表面数層のみで光の反射が起こることを意味します。
4. 位相シフトと複素反射係数
金属ミラーは反射時に位相シフトを伴います。このシフトは偏光や角度に依存し、干渉計などの高精度光学系で重要です。複素反射係数 \( r \) は以下のように表されます:
$$ r = \frac{E_r}{E_i} = \frac{\tilde{n} – 1}{\tilde{n} + 1} $$
ここで、\( E_i \) は入射電場、\( E_r \) は反射電場です。位相シフトはこの係数の偏角(位相)から得られます。
歴史
金属ミラーの歴史は古代にまで遡ります。青銅鏡などが紀元前から使用されていました。光学用途として本格的に利用され始めたのは19世紀以降で、特に天文学や軍事用途において重要な役割を果たしてきました。 20世紀中盤には銀やアルミニウムを蒸着した反射鏡が発展し、今日では高出力レーザーや赤外線用ミラーとして不可欠な存在になっています。
応用例
金属ミラーはレーザー光学を中心にさまざまな用途に活用されています。
- 高出力レーザー: 誘電体が破損しやすい領域でのビーム伝送や集光に使用
- 赤外線光学: IR領域での測定・センサにおける光学反射部材
- スキャンミラー: ガルバノスキャナなどでの高速光制御
- 天文学: 望遠鏡の主鏡(例:反射望遠鏡)
今後の展望
今後の金属ミラーの発展は、主にコーティング技術と表面加工技術の進歩に依存します。たとえば、耐酸化性に優れる保護層や、金属と誘電体を組み合わせたハイブリッドミラーの開発が進められています。 また、自由曲面加工やMEMS技術との融合により、小型・高機能なミラーが次世代光学機器に導入されることが期待されています。
まとめ
金属ミラーは、シンプルながらも光学系に欠かせない存在です。広帯域で安定した反射性能を発揮し、高出力・高温・広波長領域での応用に強みを持ちます。
参考文献
- Hecht, E. “Optics”, 5th Edition, Pearson Education (2016).
- Saleh, B. E. A., Teich, M. C., “Fundamentals of Photonics”, Wiley-Interscience (2019).
- Thorlabs Inc., “Metallic Mirrors – Aluminum, Silver, Gold Coated”
- 日本光学会編 『光学ハンドブック』 朝倉書店 (2010).
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